目黒のアルコタワーにあるDP社に転職した友人T.Sを訪ねた。
C社に買収された日本D社のIS(情報システム)部門で社内ユーザアカウントやメールサーバの運用責任者として最後まで残った彼だったが、上司のIさんが米国G社の関連会社に転職したこともあり、新天地に踏み出したようだ。
DP社の会議室で彼は開口一番「もうすぐ3ヶ月になりますが、どうも企業文化が違うせいもあり、転職病というか落ち込んでいますよ」とのことだった。私は彼から2時間くらい話を聞いてみたが、彼の仕事の内容は日本D社でのそれとそれほど変わらないものであるが、企業文化の違いというか企業の歴史・風土から派生するビジネスに対する企業の考え方が彼の落ち込みに影響しているように思えた。DP社は4兆円近い売上の世界的な化学製品製造メーカであるが、コンピュータベンダーである日本D社とは根本的に異なるビジネスモデルを持っているといえる。
一例をあげると、T.Sは検証用のクライアントPCの購入希望を上司に申請したそうだが、
上司からのコメントは「そのPCを購入すると、どれだけ会社に利益があるかを説明するよう」に求められたという。
「たかだか十数万円のPCですよ」
「だけど、入社以来数十万円の教育コースを何回か申請したんですが、全てOKで受講させてもらえましたよ。人の教育となると、金にいとめはつけないという感じなのにね」とT.Sは私に語った。
2時間ちかい彼との話を数百文字で表現することじたいに無理があるので、これ以上は止めにしたいが、DP社の会議室で一人彼を待っていたときに目にした"社内会議のグランドルール"を紹介したい。
彼との情報交換の後は、池波正太郎が東京の名店を銀座日記に書いている「とんき」でロースカツにビールと酒で旧交をあたためた。
以下に銀座日記の「冬の頭痛」にある一節を紹介する。
X月X日
昼ごろ、銀座へ出て[共栄]のチャーシューメンを食べてから、ヤマハ・ホールで[コーラス・ライン]の試写会を観る。これで二度目なり。このミュージカル映画について新聞へ書くこともあってのことだが、映画もすばらしい出来栄えで、演出にイギリスからリチャード・アッテンボローを招いたのがよかった。アメリカ映画では、別のものに仕上がってしまったろう。きょうは、小生ごひいきのダンサー、ビッキー・フレデリックを眼で追ってたのしむ。
[ルノアール]で毛のスポーツシャツ、[ヨシノヤ]でゴム底の靴を買ってから、国電で目黒に行き、久しぶりで[とんき]のうまいロース・カツレツを食べる。二年ぶりだが店内内の清潔さとサービスのよさは以前と少しも変わらぬ。酒一本に御飯二杯。みやげに串カツレツを二人前、合計二千六百円。この店は、まさに東京が誇り得る[名店]だとおもう。
帰宅して、新聞三回分を書く。このところ連日、快晴がつづき、ようやく年末の仕事に目処がついてきたので、のんびりした気分である。
そうだこの年末は、久しぶりにコーラス・ラインのビデオテープを観よう。
ーつづくー
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