■ 1999年04月16日(木)

 蘭学事始とアメリカ流マーケティング


Quote…Unquote: Control your own destiny or someone else will. - Jack Welch (U.S. business executive and CEO of General Electric, 1935-)

 自分の運命をコントロールしなさい。さもなくば、誰かがそうするだろう。


 ここ1年あまり、池上正太郎の「鬼平犯科長」、「剣客商売」、番外編「黒白」、「男振り」など40冊余りを読んできた。
 彼の小説のテーマである「人は必ず死ぬ」という「死」と隣り合わせの「生」、白・黒だけではない人間の面白さ(そう言えば、第2話にあるM先生も「人の個性」を楽しんでいらっしゃいました)、そこから派生するにじみ出るような人生観が彼の小説の魅力だと私は思う。
 また、アメリカ的な物質主義への警鐘もあり、銀座日記や食卓の情景?など昔ながらのカツレツや、日曜日の私の料理の参考になるレシピーありで大変重宝している。

 ただ、私には一つ疑問があった。
 彼は小説家なのでその思うところを筆に託し、自分の書く小説の時代時代を様々な文献から確認して、その小説を組み立てる。
 それだけでかなりの労力を要したと思う。
 それ以外にも銀座日記にある様々な映画の試写会に出かけていき、その感想を投稿するだけでも余人の能力を超えた人だが、私には"彼のメッセージに対して私はどのような生活をすればいいのだろう?"という疑問が常々沸いてきて、やり場のない欲求不満を感じる。
 そこのところは「自分で考えなくてはならない」ということなのだが・・・

 私が生業とするコンピュータ関連の産業は、アメリカ的物質主義を象徴するような効率的な経営と省力化を達成するためのツールを提供する。
 彼の小説の対象には絶対にならないような代物だ。
 私は25年以上この業界で働いてきて常に疑問に思っていたことを、池波正太郎の小説を読むことで、再確認しながらもどうしようもないジレンマに陥っていたわけだ。

 だが、その悩みをスーと解消してくれた1冊の本に最近出会った。
 その本の題名は「蘭学事始:福原義春著」という。
 この本は集英社のPR誌"ad infinitum"に連載された二十のエッセーをまとめたものだが、その本にある二つ目のエッセー「ブランドとは何か」の最後の部分を以下に引用する。

 

= 「蘭学事始:福原義春著、集英社刊」=

私はときどき、フランスの商工会議所や大学でブランド論についてのスピーチを頼まれることがある。
その際、お話しするのは「資生堂がなぜフランスで成功したのか」ということだが、私は「資生堂は、フランスの先輩のブランドづくりを手本に、きちんと実行しただけだ」と答える。
そして「そのフランスの手本がアメリカ流のマーケティングに毒されつつあるので、心配なのだ」と辛口に結ぶ。
すると、聴衆が敵意を持つどころか、そうだ、そのとおりだと賛成するのである。
これからの商品づくりは人間的要素とテクノロジーの統合、伝統技術や伝統工芸と現代のテクノロジーの組み合わせ・融合が不可欠なのだろうと、私は思っている。

  

 さすが、資生堂の会長である。
 この本のおがげで、ITとは別の「アメリカ流のマーケティング」をまず勉強しなければならなくなり、本屋をうろついているこのごろである。

 (つづく)

-P.4-

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