■ 2002年2月22日(金)

 「自助努力」の選択 (その後)


Quote…Unquote: Reading is to the mind what exercise is to the body.
-Joseph Adisson (English essayist and politician,1672-1719)

 読書は体にとっての運動と同様の効果を精神にもたらす。


(2001年9月21日、30話)の続編である。

 今晩は気の合う仲間が集まって福島さんのカクテルを堪能した後、渋谷に流れての二次会となった。
 皆さんには気の毒な事をしたが、私には祖母の四十九日の法要が終わり精進落としの意味もあった。
 二次会のお店は20年近いお付き合いのある渋谷の「S」。
このお店はコスモ渋谷館の最上階にあり、当時、このお店からの眺めはすばらしかった。
 駅前の再開発とかでホテルとオフィスを兼ねた高層ビルが建ってしまったので以前の眺めは望むべくもないが、お店の雰囲気はずーっと変わらない。
 このお店は、日本NCRの腕利きの営業課長であったI氏(今は本郷で薬局を営んでいらっしゃる )に初めて連れて来て貰った記憶がある。

 久しぶりのカラオケで午前1時頃まで歌った後、外廻りの山手線で目黒へ、タクシー待ちの行列で一杯の目黒駅を横目に見ながら30分ぐらい歩いて都ホテル東京にたどり着いた。

 都ホテル東京は最近改装したとのことで、外国人客にも人気が高い。
 黒とベージュを基調にした和洋折衷のゆったりした室内と広いベッド、スプリングの硬さも程よい。
 一人でゆっくりとくつろぎながら、自助努力の選択(その後)を整理してみた。
 父と母の25年間の結婚生活、その後の別れ。
 離婚の原因となったのは、父が始めた300坪を超えるダンスホールの経営とその借金であった。

 飛騨の高山から職人さんを呼んで貼らせた特製の床、父は毎日開店前にそのダンスホールの床を大事そうに磨いていた。

 そして祖母の葬儀での25年後の再会。
 父は今も週二回はダンスの先生をして小遣いを稼ぎながら、年金生活をしている。
 そして、祖母の葬儀以降は毎週水曜日に富山から車で実家に来ては、母を病院まで連れて行ってくれたり、母のお店の配達を手伝ってくれている。
 祖母が再び引き合わせてくれたことに感謝を込めて、村上春樹の小説「ダンス・ダンス・ダンス」から以下を引用する。

 

「村上春樹:ダンス・ダンス・ダンス(下)」より

「ねぇ、ママのことをどう思った?」とユキが僕に訊いた。
「初対面の人のことは僕には正直言ってよくわからない」と僕はしばらく考えてから言った。
「考えをまとめたり、判断したりするのに割に時間がかかるんだよ。頭がよくないから」
「でもあなたちょっと怒ってたでしょ?違う?」
「そう?」
「うん。顔を見ればわかる」とユキは言った。
「そうかもしれない」と僕は認めた。そして夜の海を眺めながらピナ・コラーダを一口すすった。
「そう言われれば、ちょっと怒っていたかもしれない」
「何に対して?」
「君に対して責任を取るべき人間が誰一人として真剣に責任を取っていないことに対して。でも無駄なことだな。僕には怒る資格なんかないし、僕が怒ったって何の役にも立たないもの」
 ユキは皿のプリッツェルを取ってポリポリと齧った。
「きっとみんなどうしていいかわからないのよ。何かやらなくちゃとは思ってるんだけど、どうすればいいかがわかんないのね」
「たぶんそうなんだろうね。誰にもわかってないみたいだ」
「あなたにはわかってるの?」
「暗示性が具体的な形をとるのをじっと待って、それから対処すればいいんだと思う。要するに」
 ユキはTシャツの襟もとを指でいじりながらそれについて考えていた。でもよくわからないようだった。
「それ、どういうこと?」
「待てばいいということだよ」と僕は説明した。「ゆっくりとしかるべき時が来るのを待てばいいんだ。何かを無理に変えようとせずに、物事が流れていく方向を見ればいいんだ。そして公平な目で物を見ようと努めればいいんだ。そうすればどうすればいいのかが自然に理解できる。でもみんな忙しすぎる。才能がありすぎて、やるべきことが多すぎる。公平さについて真剣に考えるには自分に対する興味が大きすぎる」

 

 そう、毎日の不断の努力があり、次にワインが熟成するように、潮の流れがこちらに味方してくれるまで「待てばいいの!」である。

 もうひとつ「ダンス・ダンス・ダンス」から。

 

「村上春樹:ダンス・ダンス・ダンス(上)」より

「さっきも言ったように、おいらも出来るだけのことはするよ。あんたが上手く繋がれるように、やってみる」と羊男は言った。「でもそれだけじゃ足りない。あんたも出来るだけのことをやらなくちゃいけない。じっと座ってものを考えてるだけじゃ駄目なんだ。そんなことしてたって何処にもいけないんだ。わかるかい?」
「わかるよ」と僕は言った。「それで僕はいったいどうすればいいんだろう?」
「踊るんだよ」羊男は言った。「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言ってることはわかるかい?踊るんだ。踊り続けるんだ。何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。そんなこと考えだしたら足が停まる。一度足が停まったら、もうおいらには何ともしてあげられなくなってしまう。あんたの繋がりはもう何もなくなってしまう。永遠になくなってしまうんだよ。そうするとあんたはこっちの世界の中でしか生きていけなくなってしまう。どんどんこっちの世界に引き込まれてしまうんだ。だから足を停めちゃいけない。どれだけ馬鹿馬鹿しく思えても、そんなこと気にしちゃいけない。きちんとステップを踏んで踊り続けるんだよ。そして固まってしまったものを少しずつでもいいからほぐしていくんだよ。まだ手遅れになっていないものもあるはずだ。使えるものは全部使うんだよ。ベストを尽くすんだよ。怖がることは何もない。あんたはたしかに疲れている。疲れて、脅えている。誰にでもそういう時がある。何もかもが間違っているように感じられるんだ。だから足が停まってしまう」
 僕は目を上げて、また壁の上の影をしばらく見つめた。
「でも踊るしかないんだよ」と羊男は続けた。
「それもとびっきり上手く踊るんだ。みんなが感心するくらいに。そうすればおいらもあんたのことを、手伝ってあげられるかもしれない。だから踊るんだよ。音楽の続く限り」
オドルンダヨ。オンガクノツヅクカギリ。

 

 皆で個性的に"とびきりステキなダンス"をオドロウではないか!

 (つづく)

-P.35-

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