■ 2002年09月01日(日)

 ハリーの褥瘡(ジョクソウ)と最後の注射


Quote…Unquote: Death is not the greatest loss in life. The greatest loss is what dies inside us while we live. - Norman Cousins (U.S. magazine editor and author, 1915-90)

 死は人生における最大の損失ではない。最大の損失は生きている間に心の中で死んでいくものである。


 今日が越中八尾で行われる"風の盆"の初日である。
 「謡われよ〜、わっしゃ囃す」で始まる越中おわら節を3日3晩謡いながら踊り明かすこのお祭りも近年は観光客が押し寄せて、昔の寂れた雰囲気は味わえない。
 私自身もう30年近く足を運んでいない。

 それでも、この9月1日が来ると毎年心が騒ぐ。
 第14話で紹介した伏木の「けんか山」は5月15日である。
 山里にある八尾の「おわら」は、農耕的なゆったりとした祭りであるのに対して、港町である伏木の「けんか山」は勇壮でエネルギーの満ちた狩猟的なお祭りである。
 これから秋となり、木々、草花が枯れていく季節の「おわら」と、これから訪れる梅雨には木々、草花が咲き誇る季節となり夏を迎える季節の「けんか山」は相反する対照的なお祭りであるが、どちらも情緒があり心が満たされる。
 1年に2回、胸が騒ぐ故郷の祭り日があるということも仕合せなものである。

 しかし、今年の夏は暑かった。
 7月中旬の梅雨明けから今日までほとんど連日の真夏日が続いた。
 その暑さの中を7年ぶりに高岡氏伏木に住む母が川越に出てきてくれた。
 といっても、母の実家である塩尻を基点に高岡⇔塩尻間を叔父が往復し、私が塩尻⇔川越間を受け持っての車の旅である。
 私は8月11日(日)の早朝5時に川越を出発し、塩尻にて1時間の休憩を取り、母を乗せて川越に2時に帰ってくるという、文字どおりの"とんぼ返り"での送迎であった。

 川越から塩尻へは、関越自動車道から長野道に入り下仁田にて国道254号を佐久に向かい、和田峠を越えて下諏訪に抜けるルートがよい。
 5月の連休に塩尻に出かけた時に、この和田峠の有料トンネルを使い450円払ったのを思い出し、今回は旧道を使って峠を越えてみた。
 峠道は、40回以上の急カーブがあり、狭い道を時折トラックとすれ違うので、大変危険な目に会いながら40分ほどかかかる。
 なるほどトンネルなら10分くらいで通過できるので、お金を取るだけの価値はある。
 が、高速道路ではなく一般道の安全と快適さを提供する道路行政の目的から言えば、1級国道のトンネルに料金を取るとは情けない国になったものだ。

 1週間ほど我が家にいた母が目にしたのは老犬のハリーだった。
 7月末から歩けなくなった寝たきりのハリーは腰のところに「褥瘡(ジョクソウ)」ができている。

 ジョクソウは寝たきりの人にできるもので、インターネットにその治療法の解説を見つけた。

 歩かなくなると筋肉というものは見る間になくなっていく。
 ハリーの痩せた足の付け根の上、腰骨の突き出たところの皮が直径8cmくらい丸く喪失して、肉の中央に骨盤の角が露出し、その内側から体液がにじみでてくる。
 ジョクソウは床ずれであるが、尿や便の汚れがその床ずれをいっそうひどくするので、治療法は汚れを拭き取り、こまめに寝返りをさせるしか方法がない。

 こういう時に共稼ぎの我が家では、日中のめんどうを見てやれないのでもどかしいものである。

 15歳を越えた老犬(人間では80歳くらい)には、この夏の暑さは過酷であり、体力の消耗とあいまってジョクソウが化膿し異臭を放つ。
 我々夫婦の体力も限界に近く、ハリーに最後の注射を打とうと決心をした。

(つづく)

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